Ghost like girlfriend

Interview

Ghost like girlfriend INTERVIEW

Ghost like girlfriend。淡路島出身の岡林健勝というアーティストのソロプロジェクト名である。2017年5月にリリースされた1stミニアルバム『WEAKNESS』に収録されている“fallin’”が耳の早いリスナーの注目を集め、その名と音と歌はジワジワと着実に広がりつつある。エレクトリックなサウンドプロダクションの上にメロウでふくよかな歌を躍動させていく“fallin’”は、コンテンポラリーなポップミュージックとして早くも高い求心力と推進力を誇っていた。この曲を筆頭に当初はシティポップという記号性で捉えられる向きもあったが、2017年7月にリリースした2ndミニアルバム『WITNESS』、そして2019年1月に放つ“第一声の三部作”の完結編となる3rdミニアルバム『WINDNESS』に収録されている楽曲群を通して、Ghost like girlfriendはある一定のジャンルや方法論にからめとられない多面的かつ真新しいポップミュージック像を提示している。それに触れて思うのは、いろんな音楽に触れてきた人なのだということ。その歌にはこの国の音楽土壌で育まれた往年の歌謡曲やギターロックの気配が、そのサウンドプロダクションの方法論からは海外から届けられるオンタイムなブラックミュージックやクラブミュージックに対する目配せも感じられる。しかし、その実、岡林の音楽的なアーカイブはかなり限定されているという。中学生1年生のときに妹の影響で聴き始めたジャニーズJr.の曲。ほどなくして聴き始めた日本のバンド。祖父の家にあったアコースティックギター。高校1年のときに気になっていた同級生の女の子が退学したこと。そのときの感情を曲にしたいと思った日。誰もいないコインランドリーで録音した自作曲。音楽活動を始めるために上京しライブハウスで弾き語りをしていた数年。そして、自らの音楽人生にGhost like girlfriendと名づけた瞬間。すべてが不思議な必然性を伴って連鎖し、主観と客観の狭間で自分だけのポップミュージックを極めようとする道のりが生まれていった。

Text by 三宅正一

──バンドではないソロプロジェクトであるからこその色鮮やかで多面的な音楽性を表現している人だと思うんですね。そのあたりはご自身でどう思ってますか?

岡林バンドを組みたいという気持ちは上京して本名でライブ活動しているときからあったんですけど、ライブハウスでライブをするときにバンドの中に僕一人だけ弾き語りで出るようなブッキングのイベントが多くて。そこで面と向かって共演バンドからディスられたこともあったし。「弾き語りってバラードだけやってればいいよね」みたいな。でも、その人たちのバンドはすでに存在しているバンドを水で薄めたような曲をやっていて。そんな二番煎じにディスられているけど、俺は一人で自分なりに自分らしい音楽を作ろうとしているし、それを証明したいという気持ちがどんどん大きくなっていったんです。それで、バンドを組みたいという気持ちから「いかに一人でもカッコいい音楽を作って証明できるか」というところにシフトしていって。

──Ghost like girlfriendというソロプロジェクト名を付けたのはいつごろなんですか?

岡林2年前ですね。2016年の9月ごろです。そのときの自分の気持ちとして、楽曲に対する自信はものすごくあるけど、ライブハウスでライブをやっていてもお客さんに届けきれてない感覚があったんですね。自分の曲を自分自身で殺しているような感覚をずっと覚えてました。そういうタイミングで今の事務所の方にスカウトされて、現状をイチかバチか捨てようと思ったんです。それでまず名前を変えようと思って。

──プロジェクト名の由来については?

岡林バンドを組んだことがなかったので、バンド名ってどうやって付けるかわからなかったんですけど。とりあえずまがりなりにも楽曲を作ってきたんだから、その中から自分にとって印象的な曲から言葉を引っ張ってこようと思って。そのとき書いた曲に中で印象に残っていたのが、“私が幽霊だったころ”という楽曲で。亡くなって幽霊になった彼女が49日間、彼氏の周りにずっといるという内容なんですけど。そこで“幽霊(Ghost)”と“彼女(girlfriend)”を使おうとなって。さらに、自主制作盤を出したときに名づけたレーベル名があったんですね。そのレーベル名の中に“like”が入っていて。結果的に5分くらいでこの名前は決まったんですけど(笑)、よくよく考えてみたら、“彼女みたいな幽霊”っているかいないかわからないんだけど、でもやっぱり近くにいる存在みたいな──それって自分にとっての音楽のようだと思ったし、他者にとってもそういう存在であれたらいいなと思ったんですよね。

──直感で決めたけど、すごくしっくりきたと。

岡林そうです。

──『WEAKNESS』、『WITNESS』、そして今回の『WINDNESS』という三部作のミニアルバムを聴いて思うのは、今はいろんな色で、いろんなタッチで、多面的なポップミュージックをスケッチしている状態ということで。

岡林「次はこういう音が武器になるのかな? こういう音が面白いだろうな?」という思いで3枚のミニアルバムを作ってきたので、そういうところはあるかもしれないですね。

──ほんとにいろんな音楽を吸収してきた人だと思っていたんですけど、洋楽はほとんど通ってないということで。そこにすごく驚かされたんですね。

岡林洋楽はほぼ一切と言っていいほど通ってなくて。音楽を広く聴けないというか。1曲、これといったものが見つかったらそれをずっと聴き続けちゃうんです。だから音楽を知るテンポがすごく遅い。でも、1曲を聴き込んでいくうちに「こういう音が実は鳴っていたんだ」という気付きがあって。1曲で10曲分の感動を得ているようなところがあるかもしれないですね。僕はずっと機械音痴なんですけど、Logic(音楽制作ソフト)で自分が聴いたことのない音色がたくさんあって、「ほんとはこういう音を鳴らしたかったけど、こういう音があるから使ってみよう」ってなったり、「この音を選んだからそれに合わせてフレーズを変えよう」となることが多くて。理想があってそこに向かっていくというよりは、わりと行き当たりばったりで見つけたものを組み合わせて曲を作ることが多いんです。

──だからこそサウンドプロダクションにもメロディにもあまり手癖のようなものを感じさせないのかもしれない。

岡林あとはいつもそのときのマイブームが反映されているというのはありますね。今はまたKinKi Kidsがきてますね。『WITNESS』のときはCHAGE and ASKAとQUEENをずっと聴いてました。

──Ghost like girlfriendの存在を一気に広めた“fallin’”という曲はいわゆるシティポップという文脈でも語られていたと思うんですけど。もちろんアーバンで洗練されたムードを持っている曲ではあるんだけど、おそらくご本人としてはシティポップという語られ方には違和感を覚えてるのではないかと思っていて。

岡林シティポップというのは全く意図してなかったですね。僕の中でGhost like girlfriendというソロプロジェクトはトラックメイカーというよりもシンガーソングライターであるという自負が強くあって。自分なりのポップスを作りたいという願望が昔からあった中で、Ghost like girlfriendを始動していろんな場所に置いてもらえるCDを作れるという状況になったときに「これを出して死んでもいいと思えるくらいの作品を作ろう」と思って。今後、俺が亡くなったときに残った作品がスタンダードなポップスとして存在したらいいなという気持ちで“fallin’”も作ったし、シティポップというよりは「これが新しいJ-POPだぞ」というくらいの気持ちだったんですね。なので、シティポップに分類されたときに戸惑いはありましたね。シティポップって俺の中では地方出身者があたかも最初から東京にいましたよという体で作られたような曲だと思っていて。俺は別の土地から来た人なりの東京という見方をしているし、それってすごく普通のことだと思うんですよね。

──新作の『WINDNESS』はさらにジャンルとしての記号性から解き放たれていると思うし、むしろ自らで記号がもたらすリミットを外していってるとも思います。たとえば1曲目の“shut it up”は楽曲の構造としてはアバンギャルドな要素も強いんだけど、やっぱりサビのメロディはポップとしての強固な意思を持っているなと思うんですね。これはどういうふうにできた曲なんですか?

岡林2年くらい続けていたバイトが固定シフト制だったんですね。毎週水曜日はシフトが入っていたんですけど、その店が閉店した関係でバイトがなくなって初めて水曜の夜に家にいたんですね。そのときテレビでやっていたのが「水曜日のダウンタウン」だったんです。その回でやっていた企画が、「IKKO 四文字ワードさえ言っていればロケ成立する説」というやつで(笑)。

──それ、観ました(笑)。商店街でロケしてね。

岡林「あの企画を音楽でやったらどうなるんだろう?」と思って3文字ずつ区切ったフレーズで歌詞を書いてみようと思って(笑)。

──そんな始まりだったんだ(笑)。

岡林その方法論をちゃんと自分なりに成立させられたらカッコいい曲ができると思ったし、人によってはすごく笑えるだろうなと思って。そして、“新しいポップス”としてちゃんと提示できるようにサビの歌メロも強いものであることを意識して。

──『WINDNESS』の全体像としてはどういう作品にしたいという思いがあったんですか?

岡林来年の3月7日に(Shibuya WWWにて)Ghost like girlfriendとして初ライブをすることになって。いきなりワンマンをやるんですけど、大きな会場でライブをしたいという気持ちがずっとあったので。セットリストを頭の中で想像して「こういう曲があったらいいな」と思ったものをカタチにしていくという作り方をしてきたところもあって。2枚のミニアルバムを経て、あと1枚ミニアルバムを完成させられたらワンマンができるなとなったときに、これまでの2枚でやっていないことをこの3枚目でやりつつ、今までで一番いい作品にしようと思いながら作りました。

──個人的には4曲目の“you’re my mirror”のメロディが白眉で。あらためて特別なメロディメイカーだなと思いました。

岡林有難う御座います。やっぱりシンガーソングライターという意識が強いので、弾き語りでやっても成立するような曲であってほしいという思いはずっとあって。この3枚目も全部弾き語りでやろうと思えばできる曲が集まってるんです。それは前提としてあって。要はアレンジに頼らなくてもちゃんと自立しているメロディになっているという。そういう曲が書けてると自分でも思います。

──メロディメイカーとしてのご自身のルーツはどこにあると思ってますか?

岡林メロは……高校のときずっと聴いていたのと、今でも熱意を持って聴いていたのがBase Ball Bearとフジファブリックだったので。この2組の曲ってメロディアスじゃないですか。そこに影響は受けてると思います。あとはそれよりも前に聴いていたジャニーズのグループの曲も今でも聴いてるんですけど、トリッキーな面もありつつ聴きやすいという絶妙なバランスで成立しているメロディが多くて。その影響もあると思いますね。僕は毎回メロディから曲を作ってるんですね。歌詞から作った曲って今までなくて。

──その歌詞についてはどうですか? 描きたいことの真ん中がこの3枚のミニアルバムで定まったところはありますか?

岡林歌詞については自分の作家性みたいなものをどうやって補填しようかすごく考えていて。これまで設け続けてるルールとしては小学生でも理解できる歌詞であるということ。その制限を今後崩すべきなのかどうかということも考えていて。それこそ“fallin’”の歌詞はいずれ小学校の教科書に載ってほしいという思いで書いたんですよ。歌詞は基本的にドキュメンタリー的な存在であればいいなとも思っていて。だから、もしかしたら一生スケッチし続けるのかもしれないですね。その中でこれを一生かけて言いたいというテーマが見つかったら、それを描き続けたいとも思うし。

──それにしても最近の若いアーティストはサブスクでいろんなジャンルの曲を聴きまくって、そこからリファレンスしたりしている人も多いから岡林さんみたいな人はひさしぶりに会ったなって。

岡林サブスクではほとんど自分の曲しか聴かないですね。自分の曲を聴くためだけの月額980円払ってるという(笑)。

──でも、Ghost like girlfriendがアウトプットしているポップスのあり方、その振れ幅の広さは非常に現代的だし、ある意味はサブスク的でもあるのが面白いし不思議だなと思うんですね。

岡林ありがたいことに自然とそうなっていったなと思うんですけど。ただ、アウトプットのあり方を増やし続けたらもう身体が追いつかないなと思うところもあって。そこは考えてるところでもあります。

──Ghost like girlfriendを名乗ってからここまでの時間の流れはどういうタイム感でしたか?

岡林実感がない状態で。でも、着実に知ってくれている人が増えつつあるような状態でもあって。毎日自分の曲を聴いてるんですけど、客観的に聴けちゃうんですよね。あまり自分のことだと思ってない。もちろん作り手としての視点はあるんですけど、他人事のようでもあって。静かにいろいろ動いていたというのがこの2年でしたね。今の時代に魅力的なポップアーティストはみんな楽しそうにピンチを乗り越えていると思うんですよ。それがカッコいいなと思って。自分で設定した壁を楽しみながら超えていく俺の姿を見せることができたら、そこに惹かれて聴いてくれる人も出てくると思うし。そうありたいとすごく思います。だから、今は陰影の濃い曲が多いですけど、それはわりと伏線というか。何年後になるかわからないけど、自分の人生レベルで見たときにちゃんとマイナス100から100まで歌いきったなって思いたいので。

──三部作を経て、ここからほんとに始まっていくんだと思いますね。

岡林Ghost like girlfriendを始めてから意識してやってきたのは、歌詞とアレンジとメロディがいかに乖離しているかということで。明るい曲調だったら、よりそこの明るさを埋める重いテーマの歌詞を入れたりとか。どんどんこの距離を離していけたらいいなと思っていて。そのやり方でどこまでいけるかという。それは引き続きのテーマになるかと思ってます。要はメロとアレンジだけで曲を捉える人と、歌詞を重視する人。それぞれが違う楽しみ方ができたらいいなと。やっぱり俺はGhost like girlfriendのことを客観的に見てる感じがあって。俺自身もGhost like girlfriendを通して人生を楽しくしていけたらいいし、聴いてくれる人も「あいつなら面白いことやってくれそうだな」って思ってもらえたらいいなって。このプロジェクトを通してお互いが楽しみ合えたり信じ合える関係性を作っていけたらいいなと思ってます。

──最後に、淡路島で生まれ育ったバックグラウンドが自分の音楽にどういう影響を与えてると思いますか?

岡林東京で育った音楽をやっている友だちの話を聞くと、学生時代から学校以外の場所があったんだなって思うんですよ。学校がダメだったらバンドとかライブハウスで生きればいいという別のルートがけっこう見えやすい環境だったのかなって。淡路島にはそれが全くなかったので。逃げ場がないし、そこはすべてという感じが強かった。ちょっと隔離されている感じ。影響力を持っている一人の意見にみんな従うみたいな空気もすごくあったし、それに対する反骨精神をずっと持っていたからこそ、何かに抗うような曲が今でもたくさんできていると思うんですけど。特に歌詞に関して、今はここでしか生きられないけど、いつか違う生き方を見つけられるはずだし、どうにかしてそれを探すという意志が入ってると思います。

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